大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1134号 判決 1968年4月26日

上告人

杉本鉦一

右代理人

浜田三平

用松哲夫

被上告人

池田米蔵

右代理人

鹿野琢見

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人<略>の上告理由第一点について。

記録によれば、被上告人(被控訴人・原告・反訴被告)は、第一審の当初本件土地の所有権に基づいて、上告人(控訴人・被告・反訴原告)に対し、建物収去土地明渡を求めたが、後に、賃貸借契約の終了に基づいて建物収去土地明渡を求めるとの主張を附加するとともに、当初の主張を撤回すると主張(昭和四一年四月一一日の第一一回口頭弁論期日において。)し、これに対して、上告人は右撤回については異議があると述べたが、第一審裁判所は、右追加的訴の変更を許容することを前提として、この追加された請求についてのみ判断し、上告人は被上告人に対し本件建物を収去して本件土地を明渡し、かつ昭和四〇年一月一日から右土地明渡ずみに至るまで一カ月金二八、五〇〇円の割合による金員を支払えと判決したこと、而して、原審裁判所は、被上告人による訴の変更が適法であると判断したうえ、追加された請求を認容すべきものとし、一審判決を維持して控訴を棄却したことが明らかである。

訴の追加的変更とは、旧訴の係属中原告が新たな権利関係を訴訟物とする新訴を追加的に併合提起することを指称するものである。ところで、被上告人は右訴の変更にあたり、旧訴の請求を撤回し旧訴にかえて新訴のみの審判を求めんとする意思を有していたことが記録上うかがい得るのであるが、旧訴につき訴の取下をしたか、あるいは請求の抛棄をしたか、第一審はこの点につきなんらの釈明もしていない。しかし、①旧訴の取下が効力を生じ、あるいは②旧訴の取下が効力を生ぜず、または、③旧訴について請求の抛棄がされているかのいずれかの場合においては、①においては旧訴ははじめから係属しなかつたものとみなされ、②においては旧訴はなお第一審に係属し、上告人は第一審に対し、裁判の脱漏ありとして補充判決を求め、③においては上告人は第一審に対し旧訴の請求につき抛棄調書の作成を求めるべきである。したがつて、いずれにしても、旧訴について原審が判断を加えなかつたのは相当であり、なんら違法はない。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同第二点について。

本件土地については期間の定めのない賃貸借が締結されたものではなく、上告人が昭和三九年五月一日ごろ以後本件土地を無権限に占有していたところ、その明渡を促進する目的で昭和三九年八月二八日甲第二号証の契約書記載のとおり使用の最終期限を同年一二月九日と限つて一時使用のための賃貸借が締結されたものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、この事実認定において、およびこの事実認定の過程において所論の経験則違背および審理不尽等の違法はない。また、憲法三二条違背の所論は、原審の手続に前記のような事実認定および事実認定の過程において経験則違背、審理不尽等の違法があることを前提とするものであるところ、かかる違法がないこと前記のとおりであるから、前提を欠くものといわなければならない。所論は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、九八条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之 介城戸芳彦 色川幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例